釈迦ヶ岳撮影山行(バイケイソーに思う)

04/07/17

 八経ヶ岳のオオヤマレンゲが終わったこの時期に、大峯の低山に登る事は暑さの面からあまり考えなかった。ついつい涼しげな沢登りに目が行ってしまう。この連休はなぜか釈迦ヶ岳に登って見たくなった。5月に花の山と化したあのアケボノツツジやシロヤシオツツジはその後どうなっているのだろう、古田の森のバイケイソー達はもう花は終わってしまったのだろか、そんな事が頭の中をふと過ぎった。

 
 恐る恐る葉を伸ばし始めた、四月中旬のバイケイソー(弥山)
 
 五月下旬、大群落を形成したバイケイソー(千丈平)

 旭林道“峠の登山口”に到着した、既に十数台の車が駐車している。下の登山口にもかなりの車が駐車していたし、この時期の釈迦ヶ岳はかなりの人気スポットなのかも知れない。

 登山道に入ると高く伸びきったバイケイソーが登山道の半ばにはみ出している。花期が終わりに近付いているため、小さな白い花弁の周りが少し茶色に染まりかけたものが多い。彼らを傷つけないように気を使い、体を避けながら狭い尾根道を歩く。今年のバイケイソーは違う、そう思い始めた。花の数が非常に多い、背丈は高く、もちろん葉は朽ちかけてはいるが茎に何とかへばり付いている。

私にとっての彼らは弱々しく、ちょっとした事で枯れ始めるイメージがあり、彼らに体を接触させるのはまずいとの思いがあった。花弁にそっと触れて見た。硬い、まるで造花の花弁に触れた感触だ。少し力を入れて見た。スプリングの様な弾力を感じる。茎にも手を伸ばした。茎は更に硬く強烈な弾力で私を跳ね返す。私のロマンは脆くも崩れ去ってしまった。

 024月の初旬、弥山で地面から10cm程顔を出した彼らに初めて出会った。葉を硬く結んで垂直に伸び、残雪の中で去年の枯れ草や落葉、緑といえばトオヒの木のみの世界で、彼らの緑が異常に新鮮に目に映った事を記憶している。

 ゴールデンウィークで大峯奥駈道を縦走した時には、彼らは至る所で大群落を形成し、大峯一帯が野菜畑に変身したかのようであった。この時期のバイケイソーの葉は大きく横に伸びて繁り、地面から少し頭を覗かせた当時とは大きくイメージを変えている。まるでキャベツ畑のような雰囲気であり、サー食べてくれと言わんばかりである。

 5月の中旬になると葉の先端から茶色に朽ち始め、一気に先を争うように枯れて行く。何が起こったのだ!はじめての体験で山全体に何か異常気象でも発生したのでは無いかと思った。対照的に山はシロヤシオやアケボノツツジの花の最盛期となっている。ただしこの年はこれらの花も少ない年にあたっていたようだ。

 7月に入ると枯れ果てた群れの中から僅か一割ほどのバイケイソーが茎を伸ばし、小さくて白い花数十個が茎上を縦に並べて咲いている。アー良く頑張ったと労いの言葉をかけた。

 ここから私のロマンは生まれた。かよわい彼らは体に毒を持ち大群落を形成して、いかにも美味しそうな体裁をとる。動物にサー食べて見ろといわんばかりである。動物達が有毒で食べられないものだと気づき始めた頃、彼らは役目を終えて一気に枯れ始める。生き残りを命じられた遺伝子を持つ僅かのバイケイソーは恐らく毒性が小さいか持っていないのかも知れない。彼らが子孫を残すために、身を捧げて花を付ける者を守る、人間社会では既に消えた助け合いの美しい社会がそこに有った。

 あれから3年目の花を見て、今年の花の力強さに私のロマンは崩れ去ったが、彼らにたいする気持ちは変わらない。私の思っていたほど“柔”でない彼らに、逞しい彼らに益々興味を引き付けられエールを送りたい気持ちだ。

 今度は悲しい物語では無く、悲しい現実に直面した。峠の登山口から古田の森迄の間に十数本の新しい若木の倒木を発見した。倒木の枝にはまだ青々と葉が生きづいている。極最近の事のようだ。硬い岩盤上の僅かな土面に横に根を伸ばしたカエデ達はこうも呆気なく倒れてしまうものなのか、何十年も生きてきた彼らが彼方此方でこうもバタバタ倒れているのを見ると、またもや山に異変が起きているのではないかと感じる。倒木に手を当てて優しくさすってやった。こうも沢山の倒木を見せ付けられると悲しみで涙がこぼれそうになる。

 千丈平でテントを設営した。撮影機材のみをザックに詰めて釈迦ヶ岳を右に巻いて深仙の宿に向かった。5月にあれほど山を賑やかせたシロヤシオやアケボノツツジの花が無いと、静寂に包まれた7月中旬の山はあまりにも寂し過ぎる。深仙の宿で1時間ほど過ごしたが、聞こえる音といえば風に揺れる木立の音とたまに鳴く蝉の声だけで、こんな寂しい深仙の宿を経験したのは初めてだ。香精水も枯れている。奥駈道の縦走で香精水をあてにした者は困惑するだろう。

 写真を撮る気力もわかず釈迦ヶ岳山頂に登った。以外に見通しが良く、弥山のはるか向こうに台形状の山上ヶ岳が青く覗いている。最近そろえたキャノンのf2.8 70-200mm望遠レンズや2倍リアコンを付けて試し撮りをした。さすがに三脚座の付いたレンズは安定している。三脚にストーンバックを着けてカメラバックを載せるとレンズはピクリともしない安定感を感じさせる。出来上がりが楽しみだ。1730分をまわる頃には夕陽を期待できないような天候になり、撮影を諦めて下山した。

   
 六月初旬、葉の先端から枯れ始めた西大台ケ原のバイケイソー  七月初旬、弥山 満開のバイケイソー

 千丈平には私の他に3つのテントが張られていたが、互いに交流する事もなく風の強い夜が過ぎていった。朝4時半、朝日を期待して再び釈迦ヶ岳山頂に登る。強い風とガスで眺望は全く無い。お釈迦様の南側で風を避けて休んでいると、北側の3人から一斉に驚嘆の声があがる。ガスが超高速で吹き上がり、一瞬七面山をクリヤーに映し出す。何とも凄まじいガスの速度だ。数秒でまた乳白色の幕で閉じられてしまう。2時間ほど待ってもガスと風はおさまらず、1枚の写真も撮る事も無く下山のはめになる。

 登山口に向かう尾根道では、ガスに浮かぶバイケイソーの花をたっぷりと写真に収め、倒木の悲しい現実も写真に収めた。少し物足りなさを感じながら今回の撮影山行を締めくくった。

   
 七月中旬、花の終わりに近づいた古田の森のバイケイソー  若木(カエデ)の倒木
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