里山縦走60Km

03/03/21

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  3月9日に弥山から奇跡の生還をはたし、山に対して少しの恐れと近寄りがたさを感じ、気力が充実するまで山行を休もうと思っていた。このため21日からの北アルプス遠見尾根撮影山行も中止になったが、いざ3日連休となると体がじっとしておれない。近場で危険性が無く山歩きをたっぷり楽しめる、こんな考えで去年の同時期にも歩いた紀泉高原からダイヤモンドトレールを接いだ60kmの縦走コースを歩く事にした。

3月21日 金曜日

  快晴の天候に恵まれて牛滝山バス停に降りた。私は大汗かきのため歩き始める前からパーカーを脱いで準備をするが、これを見てバスの中で一緒だった聴覚障害を持ったハイカーが、身振り手振りでそんな事をしたら寒いとアピールしてくるが、どう対応したら良いか判らない。

  5分も歩かないうちに体が山への拒否反応を示し始めた。3月9日の悪夢を体自身が覚えているのかも知れない。今までザックを担いで感じた事の無い腰部が異常に痛い、また体がだるくとても歩ける気分では無い。とりあえず昨日ザックを二段高めにセットしたのを1段低くして様子を見ながら歩く事にする。今回は完走に拘らず気分が乗らなければエスケープするつもりだ。最低目標を和泉葛城山に変えて、ユックリ、ユックリと地蔵さん登山道を登る。4~50分程歩くと体が山に馴染んできたのか、腰の痛みが取れ、だるさもかなり回復してきた。完走への希望が出てきた。

  和泉葛城山から道路完成記念碑に向かう道は、いつもはたくさんのモトクロスのバイクが走っているのに今日は全くエンジン音が聞こえない、何か規制でも始まったのだろうか。ハイカーにとってはとってもありがたい事だ。歩いているからあまり寒さを感じないが、5cm程の霜柱が立っている所もあり、歩きに同期してバリバリと霜柱の破壊音がリズミカルで楽しい。ひなたに去年の乾燥した落ち葉が2~3cmも絨毯のように積もった道があり、これもまた感触の良い歩きと音が楽しめた。

  三国山近くでは粉河から槙尾山を目指して西国巡礼の旅をする老夫婦と少し話しをした。名古屋の方で京都迄歩いて旅を続けるとの事だ。心使いの優しいご婦人のようであった。こういう状況に遭うと一人身の私はいつも大変うらやましく感じる。二人の平穏な旅を祈った。去年は槙尾山に通じるこの道で背の高いツツジが幾つも花を付けていたのに、今回は全く見当たらない、去年より春のくるのが2~3週間遅れている様だ。

  去年は全く人影を見なかった滝畑で、さすがに天候の良い今年は何人ものアウトドアーを楽しむ若者に出会った。今年も滝畑から3~40分登った所でテントを張り1日目を終えた。

3月22日 土曜日

  天気予報の通りに夜中から雨になり、小雨の中でテントを撤収した。朝からカッパを着込んでの出発だ。岩湧山の麓にまで鹿が進出している。先ほどから盛んにキュンキュンと泣く声が谷の向かいの山でコダマする。去年は岩湧山の降り口で金明水を補給したが、今回は登り口に大量の水が流れているのを発見し、ここで補給する事にした。チッチ、チッチ、チッチ、という鳥の鳴き声が聞こえる、この声は去年の奥駈縦走でずっと聞きつづけた泣声で、鳥の名前を知りたかったがいまだに目的をとげていない。

  岩湧山のススキが広がる場所近くまで来ると、小雨が小雪に変わって風も冷たくなってきた。岩湧山頂で休憩していると寒さがこたえる、5分も休まずに下山を開始した。紀見峠を過ぎて1時間程の登りの急階段で体がバテテしまい昼食にする、動きが止まるとTシャツの上にカッパ一枚ではとても寒い、早々に食事を済まして出発した。行者杉峠はダイトレの岩湧山と金剛山間でただ一つ、屋根付きの休憩できる場所だ。ここで金剛山から降りて来た中年カップル(言葉使いから夫婦ではなさそう)が休憩している。かれらの話では金剛山頂では雪が積もっているとの事だ、ここでもみぞれ交じりの雪がかなり降っているが、積もるような雪では無い感じがする。紀見峠への道は迷い易い場所が一箇所ある、経験が少なく、簡易カッパの軽装な彼らがこの雪道で迷わない事を祈った。

  千早峠から高度が増すと雪も風も強くなってきた。道にも2~3cmの雪が積もり、雪が湿気を持っているため靴底にこびり付き非常に歩き難い。まともに風の当る尾根道は寒さがこたえるが、吹雪に近いこの状態で着替えるのも勇気がいる。寒さを我慢して取り敢えず前進する。こんな遅い時間に紀見峠側に下山する今日二組目のカップルに出会う。彼らの装備は心配無いが時間的に遅過ぎる。千早峠からロープウェイの方面に下ってくれたらと余計な心配をしてしまう。

  今日は金剛山を下るまでを目標にしていたが、雪と寒さで思う様にピッチが上がらない。結局昨年と同じ伏見峠のキャンプ場で一夜を明かす事にした。この辺りで既に積雪は5cmを超えて、杉の樹氷も異常に成長している。誰もいないキャンプ場は森閑として、寒さと寂しさを増長する。屋根のある炊事場の床は強風のため雪が吹き込んで、テントを張る気がしない。トイレが水洗式でかなり綺麗だ、もちろん雪も風も全くない、しかしここにテントを張るには何か抵抗を感じる。キャンプ受付場のひさしと、物置小屋のひさしが繋がった場所で雪も降り込まず風もシャットアウトした場所がある、本日はここを借りる事にした。テントを張り終えると、まずガスコンロに火を着け体とテントを暖める。寒さと疲れで限界を感じていた気力が少し蘇る。今日は大型のガスを持っている、小さな火にすれば一晩でも暖をとる事が出来る、そんな余裕が更に心を癒してくれる。

 
 早朝の樹氷と月

3月23日 日曜日

  快晴、昨日の吹雪が嘘のようだ。まだ薄暗い。早朝の樹氷の美しさは幻想的な雰囲気を醸し出している。石畳の急坂は凍っていて、アイゼンの無い登山靴では到底歯が立たない。石畳の無い道の脇を選んで昇る。金剛山頂付近で早朝の樹氷と月のとり合せに始めて写真撮影の意欲が出てきた。レンズを一本に絞ったとは言え、写真機材だけでも6kgを背負っているのに、一枚も写真を撮らずでは背負った体に申し訳無い。約1時間写真撮影に費やした。少し満足感が出てくる。山行の目的の半分は写真撮影で、そのために何時も重い機材を持ち運び、体を痛めつけている。あれほど自身のあった体力も最近は限界を感じる事が多く、ゴールデンウィークの熊野古道小辺路と大峯奥駈道順峰計画にもかげりが見える。このダイトレ縦走もそのためのリハーサルを兼ねているのだが。

  金剛山頂から林道近く迄下ると、登りのハイカーに会うようになる。彼らはえらく軽装だが、山頂が雪で覆われている事を知っているのだろうか。金剛の水場では、インターネット情報で昨日からの雪で山頂に10cmの雪が積もった事を知り、今シーズン最後の雪を見ようとやってきたという金剛山の常連ハイカーもいた。

  水越峠から葛城山への急登はやはり辛い、亀のように一歩一歩足を進める。南斜面は昇ってきた太陽に速くも雪が溶けて、道はぬかるみ最悪の状態だ。山頂付近の尾根道に近付くとこの低山から雲海が見える。大和側の町は完全に雲海の下に沈み、大阪側は晴れて春霞の中に街並が見える。葛城山で雲海を見るのは初めての経験で感動をおぼえる。山頂ロッジで泊まった子供達が春の雪に大ハシャギで楽しそうに走り回っている。9時になったばかりのこの時間に、かなりのハイカーがいるという事は土曜日のロッジの宿泊客はかなり多いのかも知れない。

  二上山を目指して下りに入る。今回は正月に痛めた右足首の捻挫が時々痛みだす。疲れがそれに更に拍車をかける。けだるさも感じて少し長休みをしてしまった。平石峠で昼食にする。今回の昼食は3食ともカップ麺で、容積は大きくなるが倶が有って美味しくて湯を注ぐだけの簡便さは袋麺より有りがたい。小さな孫を連れた老夫婦が側の林道迄車で来たらしい、その子が私の装備に関心を持ったのか、わーデッケーザックと言って近寄ってきて覗きこむのをお婆さんが咎めると、その子はここで弁当を食べたいと言い始めた。小さな子は人のやっている事を自分もやりたいのだなと可笑しくなってくる。老夫婦も孫との会話を楽しみながら食事を始める、一人身の私にはこんな幸せな一時が来る事は無い。

  疲れを感じ何も考えずにただ黙々と歩いている。万葉の森から長いアスファルトの急登をただ黙々と歩いている。楽しそうな周囲の人達を斜めに見てただ黙々と歩く。雌岳に寄って休憩をする事も無くダイトレのコースをただひたすら黙々と歩く。足は痛く体はきしみ、とうの昔に限界を越えている。ダイトレ終点屯鶴峰に到着しても何の感慨も無く、己の体力の無さに、ふがいのなさだけを感じて近鉄二上山駅に足を引きずった。

何のために何時も、何時も歩いているのだろう。

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