八経ガ岳のオオヤマレンゲ

2002/07/07

 Home  Back

7月5日、金曜日

  7/13,14は志高の例会があるため、オオヤマレンゲを見に行けるチャンスはこの6,7の連休にしか無い。しかし天候は台風5号の余波を受けて風雨の強い予報となっていて迷いを感じる。先週は雨を理由に山行を休み、根来寺にアジサイの撮影に出かけたので今週は休むわけにはいかない。退社した後例の場所で食事し、トンネル西口に向かって出発した。309号線の夜は色々な動物に遭えるのが楽しみだが、今日は鹿を一頭見ただけに終わった。トンネル西口には既に降り出した雨の中、一台の車が駐車していた。車内で就寝の準備を終え寝ようと思っていると、どうせ明日は雨で登れそうも無いので一緒に飲みませんかと隣の車から声が掛かった。飲めませんのでと丁重にお断りしたが、23時過ぎにこんな場所で酒の誘いを掛けられるのも珍しい、開放的な気持ちにさせてくれる山ならの出来事かもしれない。

7月6日、土曜日

  430分起床すると車は七台に増え、隣の車以外は人が乗っていないところを見ると既に出発した様だ。前夜の人は雨を避けてトンネル内にテーブルを持ち出し朝食の準備をしている、中々愛嬌のある人で、ここで何処かの温泉に泊まった友人を待つとの事。

今回の様に事前に雨が判っていての山行は始めてだが、奥駈縦走で6日間を雨にたたられた事を考えると大した事ではない、山上ではまだ見ぬ麗人が待ってくれているのだから。それに気がかりなバイケイ草は如何なっているのだろう。

 
仲間に守られ、生き残ったバイケイソー 

  山行を一週間空けると体が重い、奥駈道出会いまでの急登ではかなりの汗をかいたがカッパを脱ぐわけにもいかず辛抱して登った。奥駈道に入るとアップダウンもなだらかとなり、山歩きの心地よさが蘇ってくる。この出会い付近には沢山の白ヤシオの木がある事に気付いた。釈迦の木に比べて背丈が高い、来年の開花を楽しみにしよう。

  雪の残る早春に芽を出したバイケイ草を始めて見た時、緑の少ない時期でもあったので、この草に興味をそそられた。まだ10cm程の高さであったが葉は真っ直ぐに上に伸び、硬くお互いを包み込んでいるようだった。週毎に背丈は倍程の勢いで伸びていき、葉は横に広がっていく。群落は山上に出現した壮大な野菜畑にさえ感じられた。霧の中に浮き出た緑の美しさは心をなごましてくれた。突然葉の先端からこげ茶色に変色して痛み出したのを見た時、何が起こったのだろう異常気象のせいで全滅するのではないか、とはらはらしながら見守ってきた。あの勢いのあった緑の葉が無残にも朽ちて茎は倒れてしまう。しかし蕾を付けた茎だけは朽ちる事なく残り、今週は見事に白く可愛い小さな花を咲かせている。沢山のバイケイ草が10分の一に満たない花を付ける茎を守るためだけに生き、守りきって安心したのかのように大地に戻る感動のドラマを見る様であった。

  それに引き換え人間共の何と見難い事か、人を踏みつけ押しのけて上に上り詰め、更に我欲を膨らませるあさましさ。草でさえ自分達の子孫の繁栄のために自分をも犠牲にして貢献しているのに。愚痴るのは止めよう、バイケイ草の美しい一生を思って感動している時に。

  弥山小屋の前に気になる一角があった、人や動物が入れないように網囲いがしてある。今日その正体が解った、中に木蓮の花に似た白い花が咲いている。これがオオヤマレンゲだと直ぐに解った。オオヤマレンゲを絶滅から守るためにここで育成しているのだろうか、はやる気持ちを押さえてこの網囲いの側の芝生にテントを設営し、撮影器具と傘だけの身軽な装備で八経ガ岳に向かった。

 
 恥ずかしがりやのオオヤマレンゲ

  弥山・八経の鞍部から八経ガ岳の中程にオオヤマレンゲを鹿の食害から守るために張られたネットがあり、通る毎にどの木がオオヤマレンゲだろうと推測して見たが見当が付かなかった。今眼前に清楚で純白の花を付けた木があちこちに見える、憧れの天女の花に会えた。この高山に、ややうつむき加減で控えめに咲くこの純白の花に、正に天女の花のたとえはふさわしい。雨に濡れ美しく輝く花の側で、既に花期を終え茶色に変色した花が人の生涯の虚しさを暗示しているようにも受け取れる。自分にも輝かしい時代があった、そしてこの茶色に染まった花が生涯を閉じようとしているように、自分もそろそろそういう時期にさしかかっているように感じて虚しさが助長される。精一杯に生き自然に朽ち果てて行く植物の一生を謙虚に受け止め、今を悔いの残らないように生きようと思う。

  雨が止むと強い風に変わった、丁度ブローニフィルムも終わりこれからはデジカメのお出ましだ。f2.0広角側では実焦点距離の短いデジカメは開放近くの絞りでもパンフォーカスで撮れる。シャッター速度を上げ強い風に揺れる花も何のそのだ。やはり自分にはデジカメが向いている様だ、しかし折角買ったペンタックス67を何とかマスターしよう。

  速めの食事を終えた、今夜は天女の花が添い寝してくれる。良い夢が見られる事を期待しよう。一時間も寝ただろうか、谷から吹きあがる強風は轟音を発してテントを吹き飛ばしそうな勢いである。これから寝つけない長い夜が始まった。ラジオのスイッチをいれると丁寧な言葉で一音一音の音程を正確に歌う、澄みきった歌声が聞こえて来た。寝ぼけ眼で聞く歌は更にその歌の魅力を強める様だ。歌手の名前「島田歌穂」だけは正確に覚え、明日の帰り道にCDを探してみよう。寝返りノタウチ、薄らとした意識の中で夜が明けて行くのを感じる。風は少し弱くなったが今度は大雨の様だ、テントは大粒の雨特有のバラバラと音を発している。

 

7月7日、日曜日

  やはり大雨だ、外に出るのが億劫でトイレも我慢して食事をすます。奥駈縦走の時でさえこんな大雨の中でのテントの撤収は無かった。テントの中でそれ以外はザックに詰め込み、撤収後テントはザックの外側にくくりつける事で出発の準備を終えたが、それでもかなり装備を濡らしてしまった。朝方のガスに浮かぶ花の撮影どころではなく早々に下山開始した。8時を過ぎると、この降りしきる雨の中オオヤマレンゲを見ようと登山者が続々と登ってくる。好き者は自分だけでは無く沢山いるものだと少し安心をした。

  中年女性が一人ぼんやりとしているのが見える、近寄ると旦那は道から少し入った所で、苔のむした倒木にカメラを向け一心不乱だ。三脚に自家製の延長傘をうまく取り付けて、この雨の中でも撮影に専念できる。こんな手もあるのかと感心する。風さえ無ければこれは最高ですよと少し自慢げに話す。液晶の付いたカメラなのでデジカメですかと尋ねるとフィルムカメラだという。モニターのためだけに液晶をつけるとは何と贅沢な設計だろう。でもモニターを使うとバッテリーを食うのであまり使用しないとの事。

  930分頃にトンネル西口に到着、早すぎてこのまま帰る気がしない、雨は小雨が降ったり止んだりの状態で、一瞬ではあるが日が射す事もある。車から携帯用の椅子を持ち出して座り、滝や雨に濡れた木の葉等をジックリと撮影しながら休憩をして時を過ごす。この滝は通常は水量が少なく撮影の対象とは考えなかったが、この雨でかなり増水しており写す気になった。また濡れた木の葉も良く見ると水滴が沢山ついていて綺麗だ。撮影中ツアーバスが到着し30人程が降り立った。この人達もオオヤマレンゲを見るために集まったのだろう。弁当を配ったり、体操をしたりとガイドに言われるままに動いている。自分の意思で行動できないツアー山行はあまり興味のわくものではない。

 
 水滴を付け、逆光に浮かぶ若葉

  今春の309号線の冬季ゲートが開いた時から行者還りトンネルの改修工事が終わってトンネルが開通している。トンネルと東口から169号線迄はまだ走った事がないので時間を持て余している今日は是非通って見たいと思った。道は車が対抗できる広さで全線舗装され快適に走れた。途中ガードレールに二匹の猿が座って何やらぼうっとしている、車が近づくとユックリと谷に降りていったが動作がえらく緩慢で人や車をあまり恐れていないようだ。大峰山系で猿を見るのは始めてで、まだ見た事のない動物が沢山いるのだろう、通う毎に少しずつ見識が深まって行くだろう。169号線に出ると南に下り、上北山温泉で今回の山行を締めくくった。

 Home  Back